ヴィンテージチャート不要なり、カリフォルニアワイン
2010年 11月 19日
ワインショップであれこれ悩んだ、懐かしい思い出。
でもここ、カリフォルニアではヴィンテージチャートは不要なり。
何故って?
理由はブレイクの記事をご覧ください☆
Vintage charts for California are worthless - By W. Blake Gray
ヴィンテージチャートは、ボルドー・ワインを買う時、役に立ちます。
しかし、その他のヨーロッパ地域では、それほど必要とされません。
そして、ここカリフォルニアでは、害をなしても利は無し。
何故かって?
理由をお話しましょう。
そもそもヴィンテージチャートは、英国の愛好家たちが、
フランスワインを収集する際、指針としたのが始まり。
そして一昔前にNYタイムス紙のFrank Prialが過去の長物だと宣言したにも関わらず、
フランスでは現在も重要な存在です。
でも、カリフォルニアとフランスでは事情が違います。
多くの(アメリカの)雑誌では、カリフォルニアの2007年のカベルネが素晴らしい出来で、
まだリリースされてもいない2010年のワインが良くない出来だと
こぞって書き立てていますが、これらの記事は全くのスペースの無駄。
その上、読者を間違った方向に導いています。
カリフォルニアでは過去10年にわたって、避けるべきヴィンテージは無いし、
逆に、この年のワインは買わなきゃ損、という特出ヴィンテージもありません。
この地で鍵となるのは、ワイナリーであって、生産年では無いのです。
ここがフランスと大きく違う所。
フランスの気候は年ごとに大きく違うし、予想が難しいというだけではなく、
植えられている葡萄の多くは、気候に恵まれないと熟成しないタイプ。
なので、不作の年ともなると目も当てられない状態となります。
一方で良作の年は、ひときわ普遍的で、皆が皆、美味しいワインとなります。
たとえば2009年に僕がボルドーを訪れた時の話ですが、
全てのワイナリーの2005年のヴィンテージは、
2004年や2006年よりも、ひときわ抜きんでて美味しかったのです。
その一貫性には、かなり驚かされました。
そして2003年のヴィンテージが熟成し過ぎなのも、共通でした。
メニューに、2005年Chateau Beretと2004年Chateau Mysterioが並んでいたら、
ワイナリーの背景なんて知らなくても、僕なら迷わず2005年を選びます。
しかし、カリフォルニアワインは、こうシンプルにはいきません。
主な理由は二つ。
1.年毎の天候が、それほど極端に違わない。春の雹や、夏の雨の影響はあまりない。
2.限界域で栽培されている葡萄は殆ど無い。
カリフォルニアのヴィンテージチャートに謳われているのは
ナパのカベルネ・ソーヴィニョンです。
ボルドーと違って、ナパは暑いし、空気が乾燥していて、日差しも強烈。
まあ、ナパでもカーネロスなどいくつかの地域は例外で、
これらの畑ではシャルドネやピノ・ノアールが栽培されていますが、
でも、ナパ・ヴァレーで栽培されているカベルネの殆どは、
熟さない心配…なんてありません。
普段に比べて涼しいと言われる2010年だって、例外ではありません。
いつものように超熟成とはいかないかもしれませんが、
逆に、幾つかのナパの生産者からは、これまでに無かった味が期待できそうです。
確かに、今年はソノマやメンドシーノ郡の沿岸部では、葡萄が思うように熟成せず、
ヴィンヤードの心配する声(トゥイート)が連日のように聞こえてきます。
しかしカリフォルニアの気候は、充分に暖かいので、
99%の葡萄は、今年のような涼しい夏でも、問題無く熟成しています。
ローダイのジンファンデルや、パソ・ロブレスのシラーが熟成しないとでも思います?
さてこそ、カリフォルニアのヴィンテージチャートなんて、
害にはなっても、為にはならないのです。
チャートを信じた消費者が、生産年に惑わされて、素晴らしい出来のワインを倦厭し、
つまらないワインを、ヴィンテージだけで判断して購入する…
なんて事になってしまうからです。
僕に言わせれば、為にならない情報は、情報が無いより性質が悪い。
例えばビデオショップに行ったところ、チャートに
『ジョージ・クルーニー出演の映画は全て“非常に良い出来”。
ケビン・ベーコン出演の映画は“平凡な出来”』なんて書いてあったら、
どう思います?
カリフォルニアワインのヴィンテージチャートが言っているのは、これと同じ事。
このチャートのせいで『FrostFrost/Nixon" and "Mystic River』の代わりに
『The Men Who Stare At Goats』を借りる羽目になったら?
恐らくカリフォルニアワインのヴィンテージチャートは、
バレンタイン近くになると雨後のタケノコの如く登場する、
“チョコレートとワインのペアリング”といった記事と同じ理由で存在すると思われます。
カレンダーを埋めるために、編集者は毎年同じような特集を組みたがります。
ボルドーではヴィンテージチャートが大切、でもここはアメリカ、
じゃあ、カリフォルニア・ヴィンテージのレポートでも載せようか、
毎年のレポートを集計して、ついでに出版社名入りでチャートを作っちゃおう…
ってな具合。
カリフォルニアで、不作の年を覚えていますか?
悪過ぎて、多くのワイナリーで、ヴィンテージをリリースしなかった年を。
それは1998年。
多くのライターと同じく、1998年物がリリースされた当時、僕も酷評しました。
でも、それは間違いでした。
高い評価を得た1997年のワインが、既にピークを過ぎているのに対して、
1998年のワインは、今もまだ素晴らしい風味を保っています。
固く、タンニンが強い98年物は、長期熟成に向いていたのだけれど、
それに気づかず、当時、セクシーな風味の97年物に我々は狂喜していたのです。
ね?評論家を信じすぎちゃいけませんよ。
予想が付かないとされている2010年ナパのカベルネですが、
ここで孤立無援ながら僕の予測を発表しましょう。
定評のあるワイナリーは、2010年も良いワインを造るでしょう。
中でも幾つかのワイナリーからは、素晴らしい出来のワインが期待できるでしょう。
しかし説明がつけられないまま(まぁ、つくかな)、
幾つかのワイナリーのワインは標準にも達しないでしょう。
この状況は2009、2008、2007年と驚くほど似たものとなるでしょう。
すぐ飲むか、長期保存するかに迷ったら、
まずは、そのワインを造ったワイナリーのスタイルを考える事が大切です。
例えばShaferなら、どんなヴィンテージでも長期保存に向くはず。
理由は、品質やポイント評価とは、まったく関係ないもので、
一重にShaferが造るワインは、フルボディ・スタイルだから。
飲みごろか、長期保存か?
両方とも一緒くたにしたヴィンテージチャートが、アドバイスになりますか?
皆さん、カリフォルニアのヴィンテージチャートなんて放り投げましょう。
(『The Men Who Stare At Goats』を心から楽しんだ人は別ですが。)
以上、オリジナルはブレイクのこちらの記事をご覧ください。
カリフォルニアのワインカントリーの気候は、マイクロクライメイト(微細気候)。
ほんの一つ丘を越えただけで、驚くほどの差があります。
2010年はいつもに比べて涼しい夏と言われていますが、
それ故に、でっかい事はいいことだ…的な一般的アメリカ消費者に好まれる味で無く、
アルコール度が低く、繊細なカベルネが望めそうな予感☆