ゴラン高原のイスラエル・ワイン その2
2010年 12月 07日
領有権を巡って、イスラエルとシリアの緊張が今も続くゴラン高原。
ここには多くのヴィンヤードが位置し、イスラエルで最高のテロワールを提供しています。
ブレイクのFood & Wine 記事の和約、第2弾をお楽しみください。
Israeli Wine on the Front Lines / By W. Blake Gray
Dalton Winery
イスラエルにおけるワインのルネッサンスは、才能のある若者、
例えばダルトン・ワイナリーのナ―マ・ムアレム(Naama Mualem)のような
存在に依るところが多い。
しかし、彼女の抱える困難は、紛争境界線の向こう側から来るものだけでなく、
イスラエルという国自身がワインメーカーに突きつける難題も含まれている。
ムアレムはゴラン高原生まれ。
彼女の学生時代には、何処へ行くにも武装した兵士の護衛が付き添い、
学生達にとってはそれが当たり前の風景だったと、当時を振り返る。
その後オーストラリアで醸造学を学び、カリフォルニアの
ナヴァロ・ヴィンヤーズでインターンとしての経験を積む。
しかしこれらの国で身につけた実践的な技術は、母国に帰った後、
残念ながら、彼女自身の手では実践できなくなってしまった。
イスラエルにある17の大規模ワイナリーは、いずれもコーシャー(Kosher)で、
ダルトンもその中の一つ。
ユダヤ教の掟によると、正統派ユダヤ人でない者は、ワイン製造が始まった瞬間から、
葡萄、タンク、樽、果汁、ホース、ポンプ、全ての物に触れる事を禁じられている。
「時にはイライラするわ。でも100万本も製造しているワイナリーでは、
いずれにしろワインメーカーがそういった基本作業をする必要はないのだけれど。」
代わりに彼女は葡萄畑に力を注いでいる。
気象観測施設を設置して、列ごとの葡萄の平均温度の違いまでを細かく把握。
収穫前に果実の糖分を測定し、葡萄畑のどの樹木が悪戦苦闘しているかを描いた
‘vigor mapping(活性地図)’を導入している。
(悪戦苦闘した木の果実は、風味に富んだ葡萄になる)
そしてこれらの努力の結果は、素晴らしいワインとして実を結んでいる。
中でもダルトンのワイルド・イースト2008 Reserve Viognier は、
ゴールデン・アップルと熟した洋ナシの風味に富んだ、フレッシュな白ワインだ。
Tulip Winery
チューリップ・ワイナリー(Tulip Winery)は、コーシャーで無いワイナリーとしては、
イスラエルで最大規模を誇る。
CEO ロイ・イツシャーキ (Roy Itzhaki) によると、彼らは必ずしも
それを望んだ分けでは無いのだが、そうならざるを得なかったのだ。
彼がワイナリーを設立したKfar Tikva(希望の村)は、
障害者と特別ケアを必要とする人々が住む村。
「4年にわたる交渉の結果、コーシャーで行くか、村人を採用するかの決断を迫られたんだ。
そして僕が選んだのは、村人といっしょにワインを造る道さ。」
そして現在、ボトリング、ラベル張り、葡萄の積み下ろしといった、
ワイン造りに関する基本作業に村人が携わっている。
コーシャーで無い為に、Tulipのワインはイスラエルのスーパーマーケットや
アメリカのコーシャー・ワインの棚には並ぶことが出来ない。
「確かに、セールス面では厳しいよ。」と、Itzhakiは語る。
しかし彼が目指しているのは、品質の高いワインだ。
そしてそれは2005 Black Tulipを飲むと、よくわかる。
凝縮された赤ワインのボトル、ラベルを描いたのはダウン症をもつ青年。
2008 White Tulipは、香り高い白ワインで、ソーヴィニョン・ブランと
ゲヴェルツトラミネール(Gewürztraminer)という他には見ないブレンド。
「僕は夢想家では無いけれど、そのうちいつか僕らのようなワイナリーに
明るい未来が来ると信じているよ。」
イスラエル・ワイン ベスト5
2008 Tulip Winery White Tulip ($20)
障害を持つKfar Tikva(希望の村)の村人たちが、毎日の基本作業を担っている。
ゲヴェルツトラミネールとソーヴィニョン・ブランをブレンドした、
豊かな味わいの白ワイン。
2008 Dalton Reserve Wild yeast Viognier ($20)
大規模生産の逆を行く、ワイルド・イーストを使って醗酵させたこの白ワインは、
ジャスミンと桃の素晴らしい香りを持っている。
2006 Golan Galilee Cabernet Sauvignon ($30)
ゴラン高原の幾つかの葡萄園で収穫された果実を使った、カベルネ・ソーヴィニョン。
赤プラムと黒プラムのフルーツ風味、スミレの花の香りを持つフルボディのワインは、
高原の不穏な状態など微塵も感じさせない。
2006 Binyamina Chosen Ruby Galilee Syrah ($50)
イスラエルでも古参のワイナリーBinyaminaは、1952年にハンガリーから移民した
Joseph Zeltzerによって設立された。
そのシラーは新世界風のスタイルで、熟したブラックベリーの風味、
そして香辛料と燻製肉のようなキャラクターを持っている。
2007 Domaine du Castel Grand Vin ($60)
この小さな家族経営のワイナリーが造るワインは、イスラエルでも、最も印象的なワイン。
優雅なカベルネ・ソーヴィニョンとメルローのブレンドは、
ナパやボルドー左岸の最高のカベルネにも匹敵する。
この味で、この値段、まさに買い得の一本。
以上、ブレイクの記事の和約でした。
オリジナルはこちらからどうぞ☆
ブレイクがイスラエルを始めて旅したのは、もう20年も昔。
フロリダ発、日本を終着点とした、世界一周バック・パック旅行の途中の事。
インターネットもATMも無かった当時の旅行は、今では考えられないくらい、
様々な困難が…。
でも、その反面、何が起きるかわからないワクワクした日々の連続。
遠く故郷を離れての旅は、忘れ難い思い出も多いようです。
次回は彼の回顧録を、UPします☆