人気ブログランキング | 話題のタグを見る

カリフォルニア・ワインのブログ。 夫は米国人ワインライター。その影響でカリフォルニア・ワインに囲まれた生活をしています。SFから、ユニークなワイン情報をお届けします♪  ゴマ(石川真美)


by sfwinediary
カレンダー
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31

2007年ナパ・カベルネ評価 ワインスペクテイター誌の99点に疑問あり

普遍的であるべき、ヴィンテージ評価。
しかし、ナパの2007年カベルネ評価において、WS誌は高得点を付けすぎたようです。
果たして07年のナパ・カブは、本当に99点の価値があるヴィンテージなのか?
ブレイクの評論を和約しました。


Wine Spectator got the 2007 Napa Cab vintage wrong - by W. Blake Gray

ワイン評論家が、個別のワインにつけた点数。
彼の意見に賛同しようとしまいと、『その評論家の判断は間違っている』
と言うのは不可能だ。
何故ならば、J “feed me” M氏がそのワインを完璧だと考えるのならば、
誰が何を言おうとも、彼の決断は変わらないからだ。

しかし、これがヴィンテージ評価となると、話は違ってくる。

もしも或る雑誌が20XX年の○○地方のワインは99点であると評価するのならば、
それは個人的な評価では無く、普遍的な意見であるべきだ。

そう考えると、ワインスペクテイター誌はナパ・ヴァレー・カベルネ・ソーヴィニョンの
2007年ヴィンテージを評価し損ねたと言えよう。

アメリカをリードするこの雑誌は、2007年のナパ・カブに99点を付けた。
しかしこの評価は間違っている。
そしてそう思うのは、僕一人では無い。

今週のNYタイム紙の記事でアシモフ氏がナパの07年ヴィンテージについて書いているが、
彼を筆頭として、同じように考えるワインライターは多数存在する。
先週、世界3カ国から集まったワインライター達と意見交換の機会があったのだが、
僕らの多くが、2007年のナパのカベルネは、その前後の年に比べて劣ると感じている。

2007年ナパ・カベルネ評価 ワインスペクテイター誌の99点に疑問あり_c0185058_5234131.jpg


先週、プロのワインライターの為のシンポジウムと、プルミエ・ナパ・ヴァレーが
開かれた、その参加者達は金曜日の朝、ナパのヴィンテージを比較するのに
最高の環境と言えるブラインド・テイスティングに招待された。

会場に用意されたのは36個のデキャンタ。
12種類のナパのカベルネが、それぞれ2006年、07年、08年と並んでいる。
ワインを選んだのは、この地を代表するワインメーカー達による審査団。
そのワイン・リストは、こちらの12種類。

Alpha Omega, Bennett Lane, Chimney Rock, Honig, Mi Sueño,
Oakville Ranch, Peju, Provenance, Rocca, Shafer, Sterling, Titus


これらのワインを選んだ25人の代表団は、思うに、古典的なナパのスタイルと
テロワールを体現するワインを選んだに違いない。
(何処でも作れる、熟成し過ぎの、フルーツ爆弾風味のワインでは無い。)

テイスティングに望んだのは、アメリカを代表するワインライターだけでなく、
イギリス、カナダのトップ・ワインライター達。
(会場では、英国人Oz Clarkeが、西カナダを代表する評論家Anthony Gismondiと
討論を広げ、それをワイン・エンスージアスト誌のエグゼクテブ編集Susan Kostrzewaが
横から支援する…という図が、見られた。推して知るべし。)

別の言い方をすれば、ブロガーとトゥイーターの寄り集まりでは無く、
プロ中のプロの味覚を持ったグループだ。

2007年ナパ・カベルネ評価 ワインスペクテイター誌の99点に疑問あり_c0185058_5244372.jpg


僕が3セット目のワインに取りかかろうとした所で、あるイギリスの評論家が、
「2007年のナパでは、何が上手くいかなかったのかしら?」と問うてきた。
僕にも原因は分からないと告げると、彼女は、
『07年は薄っぺら(hollow:中身が空洞)』だと評した。

彼女を皮切りに、多くの評論家と情報を交換したのだが、退室するまでに、
2007年ヴィンテージの擁護者は見つけられなかった。
いたとしても、少数派だったはずだ。

Travel & Leisure誌のBruce Schoenfeldは、後日『06年の方が断然良かった。08も。』
とトゥイートしている。(他者のコメントは、メモしなかったので此処では挙げない)

12のワイナリー中、2007年も良かったのはBennett Laneのみ。
他は皆、2006年と2008年に比べると、明らかに2007年は劣っていた。

では、何故WS誌は、この2007年ヴィンテージに99点を付けたのだろうか?
99点も獲得したヴィンテージならば、我々全員が感嘆したはずでは?

2007年ナパ・カベルネ評価 ワインスペクテイター誌の99点に疑問あり_c0185058_5251254.jpg


ワインのプロならば、皆、何を持って優れたヴィンテージと呼ぶのかを理解している。
ヴィンテージの評価方式は、ヨーロッパの長い歴史の中で培われて来たもので、
一日一夜にして定義づけられたものでは無いからだ。
フランスの2005年のヴィンテージが、典型的な良い例だろう。
僕は依然、彼の地でボルドー右岸のワインをテイストする好機を得たけれども、
全てのワイナリーに於いて、2005年のヴィンテージは際立っていた。

そもそもワインスペクテイター誌がヴィンテージを100点評価方法で
評価しようとしたのが間違いだったと言える。
でも、今日それを此処で論じるつもりはない。

得点、星数、色別、方法は何でもいいのだけれど、ワインスペクテイター誌が
2007年のナパのカベルネに、殆ど満点に近い評価を下したのは、“間違い”。
あまりにも“正しくない”評価だ。

これは初めての事ではない。
同誌は嘗て、1997年のヴィンテージに98点を付けている。
97年の多くのワインは締りが無く、熟成し過ぎで、とっくに飲み頃ピークを過ぎている。
一方で、前後の96年と98年は、現在でも美味しく飲める。
まさに10年前、今回と同じ現象が起こったのは面白い。
97年はWS誌好みのスタイルだった故に、高得点がつけられたと見受けられるが、
2007年についても同様だろうか?今の所、それは不明だ。

2007年ナパ・カベルネ評価 ワインスペクテイター誌の99点に疑問あり_c0185058_5441377.jpg

ワイン・エンスージアスト誌では、評論家が95点以上の高得点を付けた場合、
編集者は『gotcha tasting(いざテイスティング)』というステージを設け、
Steve Heimoffが、理由もなく高評価し過ぎていないかをチェックする。
彼が健在な所を見ると、このgotcha tastingシステムは、上手く稼働しているようだ。

ワインスペクテイター誌が同じシステムを取っているのかは不明だし、
まぁ、僕としてはどちらでも構わない。
何故なら、彼らの評価は一貫性に欠けるし、個人の好みからすると役立たずだから。
(彼らの評価は、まさに自分の好みと一致するという方も多いでしょう。
そこは個人の嗜好次第。)


でも、ここで僕が言いたいのは、ワイン雑誌の編集者は、
WE誌が呼ぶ所のgotcha tastingを必ず行うべきだと思う。

セレブな著者は貴重だし、獲得するのは大変なので、
既に自誌で活躍しているライターを大切にするのは良く解る。
しかし、世界3カ国から集まった40名以上のリーダー的ワイン評論家を始め、
ナパ・カベルネのヴィンテージ評価を行った人々の多くは、別の意見を持っている。
そして僕らに賛同する読者は、けっして少なくないと思う。

2007年ナパ・カベルネ評価 ワインスペクテイター誌の99点に疑問あり_c0185058_5414651.jpg


以上、ブレイクの記事、WS誌2007年ナパ・カベルネ評価を誤る、でした。

WS誌の高得点により2007年のナパのカベルネ・ソーヴィニョンの価格は上がりそう。
でも、本当にその値段に値するワインなのでしょうか?

あなたがフルーツ爆弾風味の、ビッグでボールドなワインがお好きならばともかく、
良いカベルネが持つべき複雑さ、奥の深さを望むのでしたら、
WS誌の評価を鵜呑みにして、2007年のボトルに高値を払うのは、
ちょっと考えた方が良いかもしれません。

by sfwinediary | 2011-03-04 05:11 | ワインの雑学