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カリフォルニア・ワインのブログ。 夫は米国人ワインライター。その影響でカリフォルニア・ワインに囲まれた生活をしています。SFから、ユニークなワイン情報をお届けします♪  ゴマ(石川真美)


by sfwinediary
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初めての、そして恐らく最後のDRCテイスティングよ

ドメーヌ・ロマネコンティのテイスティング会に招待されたブレイク。
Wine Review Onlineに寄せたコラムで、突撃記者ぶりを発揮してくれました。
和訳しましたのでお楽しみください。
(この記事に関する権利は、著者並びにWine Review Onlineに帰属します。)


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写真はDRCのHPより

A First, and Perhaps Last, Taste of DRC ~by W. Blake Gray

飲んでみたいと思ったワイン、これまでに全てを試す機会があった。
唯一ドメーヌ・ロマネコンティを除いては。
そして、先日、遂にその機会に恵まれた。

以前、輸入業者のカーミット・リンチ氏に、今までに飲んだ中で、
最高のワインは何かと聞いた事があった。
極稀なハンガリー・ワインの名でも挙げてくれる事を期待していたのだけれど、
彼の答えはDRC(ごめん、どの銘柄かは覚えていない)だった。
「あれほど素晴らしいワインが出来るとは、それまで考えた事が無かった」
という彼の言葉は、以来、僕の脳裏にこびりついていた。

DRCは僕と妻にとって、生きているうちに是非試したいワインの一つだった。
エボラ出血熱が大流行した場合に備えて、妻は僕に、DRCを買える店の
リストを用意させている。
でもこれ、作るのがなかなか大変なんだ。
評論家も店も、皆が熱望しているけれど、割り当てがものすごく厳しいからね。

DRC側は小売店よりも、レストランで扱われるのを好む。
多くのワイナリーがワイン・リストに載せてくれるようレストランに頭を下げる中で、
DRCは別格の存在だ。
アメリカの輸入元Wilson Danielsの説明によると、DRCを希望するレストランは、
高級ブルゴーニュ・ワインが充実した、既存のリストを持っていなければならない。
トロフィー・ワインとして扱われたくないという考えがあるからだ。

前に、ボルティモアのバーで蟹を食べた時、$30以下のボトルが並ぶ中に、
$300のクリスタルのシャンパンが特出しているワイン・リストを見た事がある。
DRCは、こんな状況を望んではいないのだ。

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同じようにDRCは、評論家も厳選している。
僕がSFクロニクル紙に在籍していた時、僕も、そして当時の編集長だったリンダも、
DRCのテイスティングには招かれなかった。
代わりに彼らが招いたのは、クロニクル紙の“元”記者。
リンダは怒りながらも、しぶしぶ彼の記事を載せざるを得なかった…という逸話がある。

今年2月にセント・ヘレナで開かれた2008年ヴィンテージのテイスティング会に、
なぜ僕が招かれたのか?
実のところ自分にも謎なのだ。

同席したのは全部で16人。セールスとマーケティングの面々、
そしてワイン・ライターは僕を含めて3人だった。
何故16人かって?
テイスティング用に開栓したボトル一本で賄える、最大限の許容人数だから。

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テイスティングはとても厳格に行われた。
会場に案内された時、8種類中、7種類の赤ワインは既にグラスに注がれていた。
そして冷やされたMontrachetは、我々が赤を味見し終えた後で注がれた。
我々は香りを嗅ぎ、口に含み、そして、もちろん吐き出した。
今思うと、全てスピットしてしまったのは後悔している。
せめて最後のMontrachetぐらいは、飲みこめば良かったな…ってね。

続いてDRCのAubert De Villaine氏が、2008年のヴィンテージに関して、
湿気が多かった夏の苦労と、ボトリチス菌の脅威について語った。
「9月の第二週は雨続きでした。9月13日も一日中雨。その日の終わりに、
2008年の生産は無理かもしれないと、皆と話したのを良く覚えています」
それは過酷なビジネス決断だろう。
DRCは年に14,000ケースほどを生産しているが、
小売価格は1本あたり$1000以上として、2000万米ドル以上の損失になる。

「9月14日の朝の事を、私は生涯忘れないでしょう。
北風が全ての雲を追い払い、暑くは無かったのですが、燦々と太陽が照っていました。」
と、de Villaine氏。
「風が葡萄を乾かしてくれたので、ボトリチスの脅威は止みました。」

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その後de Villaine氏は、我々の意見を求めた。

僕以外の二人のライター、ボネ氏 とマッコイ氏は、我先にと経験談を話し始めた。
マッコイ氏がロマネ・サン・ヴィヴァンをThe RSVと呼べば、
ラ・ターシュとロマネ・コンティのキャラが、いつもとは逆転しているようだとボネ氏。
そして例年のリシュブールとThe RSVの味わいについての知識を
ここぞと披露してくれた。

そんな中で、DRCを飲んだ事が無いと認めるのは、間抜けだろう。
そして僕は、その間抜けだった。
僕は照れ笑いをした。
でも誰だって、バナナの皮で滑って尻もちをついたら照れ笑いぐらいするだろう?

僕のテイスティング・ノートは、他の皆と似たような感想だった。
(テイスティング・ノートを読みたい方は、Wine Review Onlineをこの機会に
是非購読してください。安価で、役に立つ情報満載です。)


簡単に触れると、モンラッシュはこれまで味わった中で最高のシャルドネだった。
そしてラ・ターシュの優雅さと、美しさときたら…。

僕の付けた点数は93点から99点、モンラッシュには100点を付ける事も考えた。

正直なところ、テイスティングの前、自分が何を期待していたのか分からない。
あのような過大な評価を受けるのは、いったいどんなワインなのか?
人生で最高のラスベリー風味でも期待すればいいのだろうか?

しかし実際に味わってみると、そのセイボリー(savory)な風味に驚かされた。
The RSV(この言葉、僕もクールに使えただろう!)とリシュブールは、
塩気のある風味、そして塩リコリスの後味といった具合だ。

世界で最も高値のワインは、けっして一次元的なものではなかった。
そしてカリフォルニアのカルトワインが、それを飲む人間を仰天させる事を
目的に造られているのとは対照的に、
まさにワインを愛する者の為のワインだと言える。

DRCが、高級ブルゴーニュに不慣れな人々に飲まれるのを、好まないのが良く解る。
彼らにしてみれば、どこぞのフットボール・チームのオーナーが
“俺が買ったワインは、高いくせに、期待していたビッグなフルーツ風味じゃ無くて、
塩リコリスのような味だった”なんて文句を言うのを、聞きたくはないだろう。

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実はこの日、僕はスコッチ用の50mlの銀のフラスクを持って行った。
妻に一口持って帰りたいと思ったんだ。
でも、フラスクはスコッチの匂いが残っていたので、即、そんな考えは振り払った。

スマートな人間だったらそのままポケットに忍ばせて、何食わぬ顔で黙っていただろう。
けれども、僕は自ら、その計画を皆の前でバラしてしまったんだ。
人々の目には、僕は、礼儀正しいワイン評論家では無く、
“フラスクを持ち歩く間抜けなヤツ”と、さぞかし映った事だろう。

Wilson Danielsの代表は、かつて或る評論家がテストチューブ入りのDRCを持ち帰り、
その後、二度とテイスティングに呼ばれる事はなかった、という話を静かにしてくれた。
恐らく僕は、今後DRCのテイスティングに呼ばれる事は無さそうだ。
そして業界では、スコッチ・フラスクをポケットに持ち歩くヤツ…という
レッテルを張られてしまった事だろう。

更に、今また、このコラムを読む方々にも、自ら公表してしまったという訳。
(近々、エボラ出血熱か、黒死病が広まるなんて噂、聞いていませんか?)

でもね、起きた事は起きた事。
まぁ、今後もなんとか幸せに暮らしていけると思う。

だって、僕は遂にドメーヌ・ロマネコンティを味見できたのだから。

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以上、ブレイクのコラムの訳でした。
(原文はこちらからご覧ください)

お澄まししていられない、性格の旦那。
スノッビーなライターが多いワイン業界では、特異な存在です。
彼の姿勢は、たたき上げの新聞記者という前身が築きあげてきたもの。
“自分の見たありのままの真実を報道する”…というスタンスで、
あまり語られる事の無いネタを、体当たりで書き続けています。

スコッチ・フラスク事件、笑っていただけましたでしょうか?
相棒としては、自分で頼んだわけではないけれど、彼が私の事を思って
会場にフラスクを持って行ったのだ思うと、少々申し訳なさも感じます☆

あ~あ、来年のテイスティングへのご招待は夢の彼方のようです☆

by sfwinediary | 2011-05-13 06:35 | ワインなイベント