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カリフォルニア・ワインのブログ。 夫は米国人ワインライター。その影響でカリフォルニア・ワインに囲まれた生活をしています。SFから、ユニークなワイン情報をお届けします♪  ゴマ(石川真美)


by sfwinediary
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パソ・ロブレスとモーヴェドラ葡萄の関係

聞き慣れない葡萄の名前、Mourvèdre 。
日本語表記では“ムールヴェードル”と記されているようですが、
アメリカでこの葡萄名を発音する場合は、モーヴェドラ (more-VEH-dra) という音。
(まぁ、かなりのワイン・オタクで無いと知らない単語なので、
覚えても使う機会は極稀だとは思いますが…)

今日お送りするのは、カリフォルニア州の中でも、有数の暑~いワイン葡萄の栽培地、
パソ・ロブレスと、モーヴェドラ葡萄のお話です。
ブレイクのLAタイムス紙の記事をお楽しみください。


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パソ・ロブレスの葡萄畑

Mourvèdre grape a Paso Robles specialty -By W. Blake Gray-

発音が難しいし、ワインをゲイミー(gamy/猟鳥獣のような) 風味にする葡萄、
モーヴェドラは、カリフォルニア州でも一番暑い葡萄栽培地の一つ、
パソ・ロブレスに一番ふさわしい葡萄だと言えよう。

事実、この地のリーダー達は、この葡萄を強く推奨している。
タブラス・クリーク (Tablas Creek's) のフランス人創始者は、モーヴェドラの栽培に
ピッタリだと言う理由で、アメリカの第一号ワイナリーをパソ・ロブレスに興した。
そしてサクサム・ヴィンヤーズ(Saxum Vineyards)のオーナーJustin Smith氏は、
そもそもパソのモーヴェドラ葡萄があればこそ、ローヌ・スタイルのワイン造りに
ハマったのだと言う。

例えば、ワイン・スペクテーター誌の2010年ワイン・オブ・ザ・イヤーに選ばれた
2007 Saxum "James Berry Vineyard" red blendは、モーヴェドラ葡萄を31%使用している。

しかしこの葡萄名が正面ラベルに明記されるのは稀だ。
大抵の場合、ローヌ地方の葡萄とブレンドされて使われる。
古典的な所では”GSM” — Grenache-Syrah-Mourvèdre —のトリオ。
(パソではMSGの順で記されるべきだけれどね。)

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Mataroという別名で、モーヴェドラは130年以上前から栽培されれてきた。
しかし、この気難しい葡萄は育てるのが大変なので、次第に栽培者が減り、
米農務省によると2009年にカリフォルニアで栽培されたのは、たったの906エーカー。
栽培耕地量からすれば、Alicante Bouschet や Rubiredといった、
マイナーな葡萄達の後を追い、18番目に位置している。
そして全体の20%が、パソ・ロブレスを始めとするSan Luis Obispo群で栽培されている。

パソ・ロブレスは、フランスのバンドールと並んで、モーヴェドラ葡萄栽培に
最も適した、世界でも稀少な土地と言えるだろう。
昼は暑く、充分な日照があり、夜は涼しい。栽培可能期間が長く、
定期的に充分な量の降雨があるので、喉が乾きやすいモーヴェドラ葡萄には理想的だ。
加えて、北カリフォルニアには珍しく、石灰岩の地層を持っている。

「この地でもっともすぐれた葡萄がモーヴェドラだということは、間違いないね」
と語るのは、タブラス・クリークのワインメーカー、ニール・コリンズ氏。
ワイナリーが誇る最高ブレンド、優雅なEsprit de Beaucastelは、
モーヴェドラを基本葡萄に造られている。

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しかしこの葡萄、駆けだしワインメーカーには、扱いかねる代物だ。
酸化しやすい特性があるし、また、ワインを好ましくない物にしてしまう
ブレタノマイセス属酵母をしばしば持っているからだ。
ブレット(Brett)は、葡萄の皮や、古い木製樽に存在していて、未処理のワインに
「納屋のような」または「バンドエイドみたいな」香りをもたらす元となる。

多くのワインメーカーは好ましくないものと考えるが、フランスではこの特徴は
古くからモーヴェドラと結びついており、その良し悪しは論議を呼ぶ所ではある。

「モーヴェドラは、アメリカでは評判がとても悪いんだ。何故なら、多くの
地中海産ワインはブレットがあって、人々はこのふたつが同義語だと思っている。」
と語るスミス氏。「モーヴェドラを樽に入れておくと、何故かはわからないけれど、
その樽だけ、ブレットの香りがするんだ。
我々は長年、この獣皮のような香りは、葡萄が自然に醸し出す特性だと思っていた。
でも違うんだ、クリーンなモーヴェドラは、そんな風味を持っていない。」

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スミス氏 L.A. Times紙より

モーヴェドラは、また、ワイン初心者には向かない代物でもある。
パソ・ロブレスの多くの赤ワインは、フルボディで、果実風味に富んでいて、
ストレートに分かり易い味をしている。
しかし、モーヴェドラは、それらから遠くかけ離れているので、
愛好家だけが知るワインだった…ワイン・スペクテーターが公表するまでは。

ブレットの無いモーヴェドラは、柘榴(ざくろ)の風味に一番近いかもしれない。
「どちらかと言えば、大地っぽい風味だけれど、これだ!って断定するのが難しいんだ」
とスミス氏は語る。

ワインの風味を音階に例えてみよう。
グルナッシュの輝くような果実風味を高音だとすると、
モーヴェドラの持つゲイミー(gamy)でセイボリー(savory)な風味は低音だ。
スミス氏も「うん、バスだよね。低音を奏でる葡萄だ。」と同意する。

スミス氏を始め、パソの何人かのワインメーカー達は、酸化や
ブレタノマイセスの繁殖を防ぐ目的で、モーヴェドラに他の葡萄を加えて醗酵させる。
そしてモーヴェドラは常にブレンドされるべき葡萄で、
決して単独で使われるべきではないと考える人々も少なくない。

Hastings Ranch のスティーブ・アンリム(Steve Anglim)氏も、その中の一人だった。
ところが、いざ2007年のモーヴェドラをブレンドしようとした所、
あまりにも出来が良かった為に、急遽、単独で瓶詰めする事にしたのだ。
2007 Anglim Mourvèdreは、この葡萄種のワインとしては、最高の出来だろう。
2007 Anglim Mourvèdre Hastings Ranch Vineyard in Paso Robles ($34)

「あれは瓶詰めの1日前だった。出来が良いから、土壇場でブレンドするのを止めたのさ。
でもあれだけの品質と素晴らしさを、毎年造り出せるかとなると、ちょっと分らないな。」

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無名なこと、そして多くのワインにブレンドし易い事から、
これからモーヴェドラを扱うワイナリーが増えるかもしれない。
何故なら、現在シラーは飽和状態で、店頭販売で苦戦を強いられているからだ。

「これから、パソの葡萄と言えばモーヴェドラとグルナッシュという時代になると思う。」
と語るのは、Denner Vineyardsのワインメーカー、アンソニー・ヨント氏。

「ここにはシラーが溢れているし、誰もがそこそこのシラーを造れる。
熟成した、皆の好みのタイプがね。でも北部ローヌ地方のシラーと比べたら、全然違う。
だけどモーヴェドラだったら、世界でも最高級品がこの地で造れるんだ。」

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以上Los Angeles Times紙のブレイクの記事でした。
オリジナルはこちらからどうぞ☆

超オタクな葡萄モーヴェドラ。某誌で一位に輝き、一躍脚光を浴びました。
個人的にはブレンド率が少ない方が、気軽に飲めたのですが、
はまる人は、ハマるんだろうなぁという、風味の複雑さを感じました。
ご興味のある方は、パソのモーヴェドラ、お試しあれ♪

by sfwinediary | 2011-09-28 03:08 | ワインの雑学