カリフォルニア・ワインのブログ。 夫は米国人ワインライター。その影響でカリフォルニア・ワインに囲まれた生活をしています。SFから、ユニークなワイン情報をお届けします♪  ゴマ(石川真美)


by sfwinediary
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ワイン・ライターの本音 - ワイン評

とある夕方の事。突然、奇声を挙げたブレイク。
すわ一大事かと慌てて駆けつけた所、ボタンを押し間違えて、
ブログにアップしようといていた記事を削除してしまったそうな。
一月前に書いたものなので、インタビューやテイスティング・ノートを記したメモ帳は
すでにゴミ箱の藻屑と消えて久しく、新たに書き直す手段は無かった。

それはカルトワイン愛好家達に評されるタイプのワインで、彼の好みでは無かった為、
どうしても肯定的には書けず、どのようなアングルからアプローチすればいいのか、
ずっと悩んで試行錯誤していた記事だった。

日本ではプロの書いた否定的な見解のレビューというのは殆ど目にしない。
悪い点を露わにしない、奥ゆかしい文化のせいだろうけれど、
え~~、こんな映画に高得点?ってな、太鼓持ちレビューが多い気がする。結果、
記事につられて映画を見たのは良いものの、お金と時間の無駄だった…なんて事に。

所変わってアメリカでは、映画やTV番組、音楽等、プロの評論家達を
唸らせるハードルはなかなか高くて、世の中にはかなり辛辣な評価が横行している。
しかしそんな中で、ワイン・メディア業界は別のようだ。
太鼓持ち記事は書かない、という姿勢ではあるものの、
個別のワインやワイナリーに関する否定的な記事を目にする事は、あまりない。
いったい何故か?

ブレイクが語るワインライターの本音です☆


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Why nobody writes bad things about wine – By W. Blake Gray

ある土曜日の事だった。
僕は不覚にもボタンを押し間違えてしまい、保存してあった某ワインメーカーの
インタビューとテイスティング・ノートの長い記事を削除してしまった。
一月前に書いたもので、殆どのワインは(僕にとっては)飲める代物では無い…
といった内容だった。
後に、このワイナリーの産品がカルトワインとして話題に上ったのを知り、
トゥイートした所、他のライター達からワイナリー名を教えて欲しいとの要請が来た。

もちろんその名前を公表するつもりはない。
ワインメーカーとの仲もあるけれど、第一の理由はワイン業界全体との関係ゆえ。
そしてこれが、プロフェッショナルなライターが書いた否定的なワイン記事を
ごく稀にしか皆さんが目にしない理由だ。

これは今日のワイン・メディア業界の暗部と言えるだろう。
僕はワインの記事を書き、売っている。
そしてその事実が僕をプロのライターとしている。
もしも僕が他に職を持っていて、それが退職の日まで保証された堅固なものならば、
理論上は、悪いワインに関する誠実な記事をもっと書けるはずだ。
しかし嘗てその状況に最も近い、新聞社のワイン評論家という職についていた時でさえ、
会社のポリシーは「良いと思ったワインだけを記事にする」という姿勢だった。

今日、どれだけの評論家が否定的なレビューを書いているだろうか?
ワイン・スペクテーター誌のJames Laube氏が、たまさか80点台を付けるけれど、
彼は自信に満ちた揺るぎない地位についている。
自ら会社を経営するJancis Robinson女史は、高値の付いたボルドーを
「とんでもないワイン」と呼んでいるが、パーカー氏に反論する手段として
そうしているように見受けられる。

否定的な記事を書ける立場としては、パーカー氏が一番だろう。
自ら会社を運営し、自前でワインを買い、業界に尊敬され、恐れられてもいる。
おまけに弁護士だから言論の自由についてはお手のものときている。
しかし彼でさえもワイン・アドヴォケイトに否定的なレビューを載せなくなって久しい。

何故なのか?

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僕は物事を恐れないタイプだし、パーカー氏もそうだろう。
では何故、肯定的な記事しか世に出ないのか。
そもそも我々がワインライターになったのは、自ら強固な意見を持っているからだ。
多くのパネルディスカッションの席で同業の輩が、今し方試飲たばかりの
まずいワインを、散々にこきおろすのを目にしてきた。
でも公の席で同じ意見を口にするものは誰もいない。

それには3つの理由がある。2つは寛大さから、1つは臆病さから。

理由1)哲学
自分個人の味覚は、決して全員の味覚と同じものではない…
という事を、評論家たちは良く自覚している。

僕はもう何年にもわたって、自分の好みでは無いワインをパーティの度に提供してきた。
念の為に一口試して、やっぱりこの味は自分の好みでは無いと確信するのだけれど、
「普通の人々」はワインの味についてあまり深く考えずに口にしているようだし、
中にはさも美味しそうにそれを飲んでいる人もいる。

理由2)礼儀と尊敬の念
ワインを悪しざまに言う時、それは映画やブロードウェイ劇、あるいは車といった、
大勢の手によって出来あがった製品を非難するのとは違うのだという事実。
相手が大規模ワイナリーの場合でさえも、ワインメーカー個人を、
あえて言えばヴィンヤード・マネージャーを非難している事になる。

例え僕が、熟成し過ぎで酸味に乏しいワインを造るプロデューサーに対して、
製造を止めさせる権限を持っていたとしても、そんな事は決してしないだろう。
僕の好みでないワインを造る事は、不正行為でも何でもないのだから。
ワイナリーは一生懸命に生計を立てようとしているのだし、
もしも君が少しでもこの業界に身を置いたならば、
ワイン造りがどんなに不安定なビジネスかが良く解るだろう。

理由3)自己利益
もしも僕が映画やTV番組の評論家のように、痛烈なレビューを書いたならば、
ワイナリーは僕を恐れて、インタビューはもちろんの事、
サンプルだって送ってはくれなくなるだろう。
ワインメーカーが僕の電話に出てくれなかったら?記事が書けなくなるよね。

嘘だと思う?
昔、僕がナパの或る大規模ワイナリーのワインを賞賛する記事を書いた所、ワイナリーの
お気に召さなかったようで、彼らは数か月にわたり僕の悪評を撒き散らしてくれた。
気に入られないからと言って、自分の書いた物を取り下げる気は一切無いけれど、
やり難かったことは確かだった。

個人的なレベルだけでなく、僕がかつて席を置いた新聞社のような大手でさえも、
否定的なレビューを載せないのには理由がある。
仕事が困難になるだけだからだ。

どうせ、タダ飯やワイン、視察旅行に懐柔されたんだろう…と、君は思うかもしれない。
ロバート・パーカー氏は、これらを一切受け付けないけれど、
でも基本的なポリシーは僕と一緒だ。

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長くなったけれど、そういう訳で僕は某カルトワイナリーの名を公表しない。
ワインメーカーが好きだし、彼の物語は面白い。
そしてパーカー氏は、彼のワインが大好きだ。
(それがそもそも彼の記事を書こうと思った理由の一つだったんだけどね)
まぁ僕の存在は、Monktonのマンモスに比べたら蚊のように小さいけれど、
ともかくも彼のビジネスの妨げになる事は心配せずに済むわけだ。

まてよ、パーカーとジャンシスの闘いがシャトー・パヴィ(Chateau Pavie)の
売り上げを伸ばしたように、逆に世間の興味を掻き立てる事で
ビジネスの手助けが出来るかもしれないね。

安全性や巨額の金が直結する、車の評論家や株のアナリスト達と違って、
僕は読者達に向かって、これこれのワインは絶対に飲まないで下さい…
なんて忠告しようとは思わない。
某ワイナリーの人気急上昇ぶりを、ファン達のコメントから学んだ次第だし、
君だって彼らの一人となるかもしれない。
そうしたら、僕が否定的な評価を下す事で、君の喜びに水を差すことになるだろう。
人々からワインを飲む楽しみを奪うなんて酷い事を、いったい誰が出来ようか?

僕が好きではないワインは確かに存在する、でもこれから先、
好きなワインの事だけ話すようにしよう。

Bollinger Champagne? 素晴らしいよね。
Herman J. Wiemer Gewurztraminer? 傑作だよね。
Ravenswood single-vineyard Zinfandel? 卓越している。

この世の中には、語るべき素晴らしいワインがいっぱいあるからね。

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以上、ブレイクの記事でした。
オリジナルはこちらからどうぞ♪

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by sfwinediary | 2011-11-02 07:44 | ワインなお話