カリフォルニア・ワインのブログ。 夫は米国人ワインライター。その影響でカリフォルニア・ワインに囲まれた生活をしています。SFから、ユニークなワイン情報をお届けします♪  ゴマ(石川真美)


by sfwinediary
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アメリカ新聞業界における、フードライターの特殊性

夫がワインライターという仕事をしているので、自然、生活の中心話題はワイン。
それに伴い、切っても切れない関係にある食の世界にもどっぷり浸かっています。
友人達も皆食べ歩きが大好きで、食に対して真剣だし、生業にしている輩も少なくありません。

周りを見ると、現在活躍中のワインライター達は、若い時分新聞社に身を置き、
社会部やスポーツ畑の記者を経験した人間が、結構な割合で存在します。

一方で殆どのフードライターは、大学でジャーナリズムを専攻したわけでもなく、
夜討ち朝駆けで政治家や警察に張り付いた経験もなければ、
1分1秒の締め切り時間と闘いながら試合直後にスポーツ記事を書きあげた経験も持たない。
いわゆるジャーナリストとしての訓練を受けずして、プロのライターになった人が多いようです。

ここアメリカでは、スポーツ欄はそこそこ読めるけれども、
料理欄となると、何これ?というローカル新聞が少なくありません。
その傾向は地方に行けばいくほど顕著になるのは何故なのか?
ブレイクが語ります。


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Why newspaper food writing is bad – By W. Blake Gray

先日Bruce Schoenfeldがツイートした。「何故、地方紙の食と料理セクションの記事は、
スポーツ記事に比べてあんなに質が劣るのか?」と。

自身の経験から、僕程この返答に相応しい人間は、全米広しと云えども
そうはいないと自負してお答えしよう。僕は昔、新聞社のスポーツ記者だったし、
フード・セクションのエディターも経験しているからね。

『 Why newspaper food writing is bad 』というタイトルから分かるように、
決して、スポーツ記事の出来が素晴しいと言ってるんでは無い。
新聞に掲載される食関連の記事が、あまりにも酷過ぎる…というのが現状なんだ。

読むに耐えるフード・セクションを持つ新聞は、全米でも片手で数えるほどしかない。
僕がかつて在籍していたサンフランシスコ・クロニクル紙、
記事を寄稿しているロサンゼルス・タイムズ紙、そしてNYタイムズ紙。
後は、え~っと…
誰かこの他に挙げられるかな?

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何故、地方紙のフード・ライティングは良くないのか、その理由は4つある。

1)性別による違い

新聞社経営陣の殆どは男性が占めている。
そしてつい最近まで、フード・セクションは女性だけの領域だった。
経営者も編集局長たちも、ビジネスやスポーツ・セクションを解する様には、
フード・セクションを理解出来なかったのは、性別の違いが大きな理由だろう。

注意してほしいのは、僕が上に挙げた3紙のフード・セクションは全て、
男性の編集局長によって束ねられているという事実。
マイケル・バウアー氏は、男性だからクロニクル紙のフード・セクションを
上手に運営しているのか?と問われれば、答えは「否」だ。
しかし、彼は新聞社の上層部の理解を得る技術に長けている。
もちろん女性でもこの仕事が出来るだろうが、上層部側の受け取り方が違うのだ。
局長が男性である方が、会社の上層部もすんなりと事情を理解するようだ。

誤解しないでほしい。記者として、編集者として、またはマネージャーとして
男性が女性よりも長けていると言っているのではない。
しかし男性と女性のコミュニケーション方法は明らかに異なるし、
その違いを無視しても、根本的な違いが解消されるわけではない。

2)物語全体よりも、レシピに重点が置かれる

そもそもの質問を発したブルースは、フード・エディターが考えている一般的読者の
範疇には入らない。何と言ってもフード・セクションの基本はレシピにあり、
セクション全体がそれを囲む構成となっている。これは以下の点にも関係してくる。

3)問われるのは文章力よりも、特別な能力

大抵の場合、記者は一般の人々よりも文章を書くのが上手い。
ビジネス・セクションの記事を書くのはビジネス経営者では無いし、
法律関係の記事を書くのも弁護士では無い。大抵の場合、記者の手による。
しかしそんな中で、フード・セクションだけは新聞社でも唯一、万能家ではなく、
専門家達が集まる特殊な部署だ。
新聞社のフードライター達(特にフリーランス)に求められる能力は、
まず料理を作れる事が第1前提で、記事を書くのは2番目となる。
それだけレシピが重要なのだ。

まぁ、食と料理に関心を持つ人口が増え、有名料理学校の卒業証書を持たずとも、
皆こぞってブログにレストラン評を書く昨今のアメリカなので、
現在のフード・セクションの状況は、あまり時を経ずして変化する事だろう。

4)フード・エディターが選ばれ評価される基準

会社のトップ達は、フード・セクションの事をあまり理解せず、深入りもしたがらない。
その為、往々にして、自力で部署を造り上げ統轄運営できる能力を持つ人物が
フード・エディターに選ばれる。

例外もあるかもしれないが、こういった状況下では、多くの場合、急速に
オリジナル性に欠乏するといった事態に落ち入ってしまう。
新聞を端から端まで読んでいる読者には、こうした事態は一目瞭然だろう。
しかし、そもそも殆どの新聞社で、フード・エディターが選ばれた理由は、
記事の独自性を判断する才能でも、内容を向上させる能力でもない。
ただひたすら会社にとって頭痛の種とならない事を求められているのであり、
平凡でもトラブルを作らない能力の方が、よっぽど重要視されるのだ。

この他、フード・セクションが送り出す記事のレベルが低い理由は、
予算と人員不足にある。(まぁ、これは新聞業界全体に当てはまるけど。)
概してフード・セクションは他の部署に比べて、フリーランスを多用するけれど、
それが本質的な弱さに直結するわけではない。低レベルの記事が載るのは、
エディターがライターの選択を誤った為であり、ここでまた理由(3)に戻る。

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さて、ブルースはフード・セクションを、特にスポーツ局と比べたけれど、
両者の違いを見てみよう。やはりポイントは4つに絞られる。

1)スポーツのエディターは、殆ど全員が男性であり、彼らは経営者や編集局長達と
フットボールやゴルフの話題で盛り上がるコツを良く心得ている。
お偉いさんにとってスポーツ局は、身近な話題を提供するセクションであり、
それだけに注目度も大きい。

2)スポーツ局ではレシピを創作する必要が無い。
得点表の作成云々といった作業はあるが、記事を書くのが仕事だ。

3)1つの競技だけを扱う専門記者はスポーツ局では至って少数だ。専門家である
アウトドアやフィットネスのコラムニストは、往々にして記事を書くのが下手な場合が多い。
殆どのスポーツ記者は、皆ジェネラリストとしてスポーツ全般を扱い、記事にする。
中には20年もフットボールについて書き続けて、有名になる場合もあるだろう。
でも、彼女だって駆け出しの頃には、野球、バスケットボール、ナスカーといった
記事を書いたはず。

僕もかつて、ゴルフ・コラムを書いた事がある。
レギュラー担当者が休みの間、ひと夏をカバーしたんだ。
僕はゴルフをプレイした事は無かったし、知識もほとんど無かった。
まぁ、これはちょっと過激な例で、出来の良し悪しは読者の判断に委ねるけれど、
少なくとも僕のコラムは独創性に富んでいたと思うよ。

言いたいのは、デスクが僕にフットボールの記事を書くよう要請する時、
彼らは僕が上手くプレイ出来るか否かなんて質問はしない。
フードライターにとって、料理能力は大切な要素だけれど、
スポーツ記者がスポーツ万能である必要な全くないんだ。

4)スポーツ局は報道局と深い関係にある。時にはスポーツ・エディターが
ニュース・ディターに抜擢される事もあり、両者ともに昇進街道まっしぐら路線だ。
でも残念ながら、フード・ディターはちょっと違う。多くの場合、彼らは
フードライターとして雇われ、エディターに昇進した後は、大きな出世はまず望めない。
NYタイムズ紙のサム・シフトン氏は、レストラン評論家から国内ニュースの
編集長に抜擢されたけれど、現在の米新聞業界ではその辺りが最高位かもしれない。

また、マイケル・バウアー氏がクロニクル紙のニュース・エディターになり、
彼の手が加わってからのフィーチャー・セクションの出来が素晴らしいのは才覚だろう。

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さて、もう一つ、5つ目の理由をここに記しておこう。

判断力のある人間だったら、大抵、試合のどこが重要な場面だったか分かるはずだ。
その場面に貢献した選手へのインタビューや、広報からの発表を使えば、
ジャ~ン、読むに耐える記事の出来上がりってわけ。
何も最高の記者でなくたって、書ける。
可もなく不可も無しのスポーツ記者が、成功したキャリアを長く続けられる理由だ。

それに比べて、良いフード・ライティングは、より一層の技術と努力を必要とする。
いくら君が“エビ料理”を飽かず眺めていても、彼らは躍り出したりしてくれないだろう?
Jonathan Kauffmanのような素晴らしいレストラン評論家が書いた記事は、
読むだけでワクワクさせてくれるけれど、普通のライターの場合、もっと努力を要する。
シェフへのインタビューや、そのエビが何処で採れたのかといった情報を収集するなど、
何らかのアングルを模索して、記事を面白くする必要がある。

もしもアメリカが90年代初頭、インターネットが新聞業界を破壊する前に
食と料理についてもっと強い関心を寄せていたならば、
現在のような状況は防げたかもしれない。

今や、世に素晴らしいフード・ブログは多数存在するけれど、
アメリカの新聞紙上に見るフード・ライティングはそれに遠く及ばず、
これから先も期待できないだろう。
さびしい限りである。

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以上、ブレイクの見たアメリカ新聞業界のフード・ライティングについて、でした。
オリジナル記事はこちらからどうぞ♪

クロニクル紙では、レストラン評は3回通って判断して、眼鏡にかなった店だけを
記事にする方針。(経費で落とせない一般ブロガーにとっては、高いハードルです☆)
また、レシピの創作作業も大変な仕事で、レシピ記事を発表する前に、
テストキッチンで納得のいくものが出来るまで、時には何十回も試作品を作るそうです。
今頃はサンクスギビング用のレシピ制作で、毎日何羽ものターキーが料理されている
事でしょう。

さて、新聞読者の中には、「○○の材料をXXの材料に変更して作ったんだけど、失敗よ。
どう落とし前を付けてくれるのよ(怒)」と、いうコメントも少なくないそうです。
コーヒーが熱いからと慰謝料を請求してしまう国、メディアの仕事も大変です☆

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by sfwinediary | 2011-11-08 09:02 | 日記