2つのブラジルワインをめぐる僕の忍者クエスト
2012年 02月 01日
審査員として、2011年秋、ブラジルに招かれたブレイク。
2本のブラジルワインにまつわる、旅先での忍者クエストの様子を綴っています。
お楽しみください☆ オリジナル英文はこちらからどうぞ♪
My ninja quest for two great wines from Brazil - By W. Blake Gray
と或るパーティ会場。
僕は一所懸命にワインボトルの山をかき分けていた。
周りに響くのは、ワイングラスの触れ合う音。
聞こえてくるのは、フランス語、ポルトガル語、スペイン語で談笑する人々のざわめき。
しかしそんな中で僕は一人、顔をしかめながら、只ひたすら、次から次へと
ボトルを持ち上げては下ろし、持ち上げては下ろす…という行為に専念していた。
何故って?
コンクールで試飲したワインの中で、2番目に美味しいと思ったワインを探していたんだ。
欧州をリードするブリュッセル国際ワインコンクールの一環である、
Concours Mondial de Brazilの審査員として、僕はブラジルを訪れていた。
審査はブラインド形式で行われ、審査後のパーティでも結果は未だ発表されていなかった。
僕が審査中に気に入ったワインは2本、カベルネ・フランとヴィオニエ。
しかしブラインドだったので、その時点で分かっていたのは葡萄の品種のみ。
お気に入りの2本を探し出そうと、僕は頑張っていたってわけ。
カベルネ・フランは簡単だった。
審査したカベルネ・フランは3種類のみ、その内2009年ヴィンテージは1種だけ。
それさえ判れば、後は楽勝。3つの大テーブルに所狭しと並ぶ300本以上のボトルの中から、
お目当ての1本を探すだけだ。
例えボトルが空になっていようと、どのワイナリーの手によるものかすぐ判る。
問題は2010年のヴィオニエだった。この条件に合うのは3本。
実際に味を確かめないと、どの1本だったのか永遠に分からなくなってしまう。
おまけにこれらの3本は、人々が盛んに手を伸ばしているテーブルに置かれているらしい。
もしも誰かがこのボトルを発見したならば、忽ち人の手から手に渡り、
あっという間に空になってしまうに違いない。
皆さんは、プロのワイン飲み達が、優れたワインに手を伸ばす有様を
ご覧になった事があるだろうか?
それはまるでパタネグラ豚に食らいつく、ピラニアとでも形容しようか、
「う~ん、美味しいね。あれ?もう空っぽなの?」という感じ。
そしてこの会場は、プロのワイン飲み達で溢れているときている…。
僕は焦った。
さて、その時の僕は、あるアドバンテージを握っていた。
全てのワインボトルは、必ずしも開栓されてはいなかった。というのも、
パーティ主催者は、会場に未開封のボトルを運び込んだばかりだったのだ。
そして多くのソムリエ資格者達が丸腰の中、僕はコークスクリューを持参していた。
そもそもこのパーティに出席したのは、この2本のワインを探すのが目的だったので、
あらかじめ“コルク抜き”で武装していった…というわけ。
20分程ワインの山と格闘した時点で、2010年のヴィオニエを2本探し出していた。
両方とも未開栓だった。
ボトルを鷲掴みにするや否や、僕はこっそり人気のない片隅に持って行き、
期待しながら栓を開けた。しかし、すぐに違うと分かった。
どちらも僕の追い求める1本では無かった。
ちょうど2本目を試飲していた時、一人のフランス人審査員が「何飲んでるんだい?」
と聞いてきた。僕のフランス語に対する認識では、彼は、『パーティの最中、
こんな片隅に隠れて、いったい何やってるんじゃい?』と問いたかったのだろう。
あくまでも推測だけど、そう事実と遠くないと思うな。
幻のヴィオニエを求めて、僕はテーブルからテーブルをさまよい続けた。
何度も何度もチェックした。でも、何処にも見つからない…。
しかし、遂に夜明けは訪れた!
テーブルの上に無いので、人々が談笑しながら手にしているボトルに目を凝らした所…
あったーーーー-!
そのボトルは、ある審査員の手に握られていた。
僕は高級レストランの給仕よろしく、彼の後ろにピッタリとついた。
ヨガのマウンテン・ポーズで立ち、次にどんなアクションでもとれるよう準備した。
・・・。
審査員がちょっとだけボトルをテーブルに下ろしたその瞬間、
僕はボトルをすくい上げ、まるで忍者の様にその場から姿をくらました。
ワインの名はCampos de Cima Da Serra RAR Collezione Viognier 2010。
ブラジルでは、25レアル(約US$14)で売られている。
僕は大好きだったのだけれど、コンクールでは銀メダルだった。
製造者はMiolo wine group、ブラジルでも最大級規模のワイナリーの一つ。
でも何よりもこのワインで興味深いのは、ヴィンヤードだろう。
この葡萄は、ブラジルでもっとも成功した起業家でありワイン愛好家の
Raul A. Randon氏が植えた畑で収穫された。
ブラジルで世界クラスのワインを造ろうと思ったら、
そう、一から、葡萄の栽培から始めなけらばならないのだ。
「世界クラスのワインを造るのは、ラウール・ランドン氏の夢でした」と語るのは
Mioloのワイン醸造家Daniel Alonso氏。
ランドン氏はブラジル南西部にある、雨が少なく乾燥していて、夏暑く、
昼夜の寒暖差が激しい、標高1000メートルの遠方地に葡萄園を切り開いた。
「ブラジルの葡萄栽培では雨が問題となります。葡萄園は250キロも遠方にありますが、
彼の地は特別なのです。」とアロンゾ氏。
ワインは12カ月間フレンチオークで醗酵されるが、樽味はごく上品に現われている。
好ましい新鮮なドライアップル風味と、フローラルな香りを持つ。
口当たりは芳醇だが、酸味が心地よい後味を残してくれる。
アルコール度は13度。世界クラスのワインで、評価は91点といった所だろうか。
この味で24レアル(約1100日本円)は買い得だろう。
僕が見る所、多分このワインで利益は出ていないんじゃないかな。
でも、彼の夢、世界クラスのワインを醸造するという点では成功したのだから
ランドン氏としては、善しとする所だろう。
もう1本の、僕が一番好きだったワインは金メダルをとった。
親愛なる審査員の皆さんも僕と同じ意見だったんだね。
Pequenas Partilhas Serra Gaúcha Cabernet Franc 2009は、素晴らしい
ジューシーなカベルネ・フラン。ダークなプラム、ダーク・チョコとハーブの香り。
酸味が豊富でバランスのとれたワイン。
ブラジルで最大のAuroraが1200ケース造ったので、比較的見つけ易いはずだ。
残念ながらAurora関係者と話す機会が無かったので、語るべき背景物語は無い。
まぁ恐らく、再び飲める機会も当分は無いだろうしね。
いずれにしろ、ブラジルワインの将来の可能性を考える時、
僕はこの2種類のワインを忘れる事は無いだろう。
以上、ブレイクの記事の和訳でした。
オリジナルはこちらからお楽しみください☆