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カリフォルニア・ワインのブログ。 夫は米国人ワインライター。その影響でカリフォルニア・ワインに囲まれた生活をしています。SFから、ユニークなワイン情報をお届けします♪  ゴマ(石川真美)


by sfwinediary
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『サイドウェイ』から『バーティカル』へ、レックス・ピケット氏インタビュー 其の2

Sideways=飲み過ぎて横になった状態。

アメリカにピノ・ノアール旋風を巻き起こした『Sideways』の著者が、
続編『Vertical』を発表しました。
Vertical(直立状態)のマイルズは、如何にして生みだされたのでしょうか?
そしてステファニーを演じた女優サンドラ・オーとの確執。

著者レックス・ピケット氏の核心に迫った、ブレイクのインタビューをお楽しみください。
(こちらの記事は著者W. Blake Grayの了承の元、日本語に訳しています。
著作権はPalate Press LLC, W. Blake Grayに帰属します。無断転載を禁止します。)
オリジナル記事はこちらからどうぞ☆ インタビュー其の1は、こちらです☆


Straight Discussion with Rex Pickett -by W. Blake Gray (Palate Press掲載)
(其の2)

ピケットとVerticalについての話をするのは、少々痛みが伴う。
何故なら小説の中では、IPNC(オレゴン州国際ピノ・ノアール・セレブレーション)を
始めとするワイン・イベントで、様々な美女がマイルズに身を捧げているが、
全てフィクションだからだ。

例えば、作中マイルズがNYタイムズ紙のワイン記者と寮で事に及ぶ場面があるが、
実在の記者、エリック・アシモフ(氏)は魅力ある女性とは言えない。
そしてピケットが書く事柄は全て実際の出来事がベースになっている。
ではこの記者のモデルは誰なのか?

聞かずにはいられずに質問すると、彼女のモデルはオレゴン州のワインライター、
キャサリン・コールだとの返答。
ピケットはIPNCに行かなかったので、イベントの様子をコールに取材したのだ。
「本の中の君のキャラクターとデートしてもいいかな?と聞いたら、
答えは『夫に聞いて見るわ』だった。
実際にはそんなことは起こらなかったけれどね。彼女はとても魅力的な女性だよ。」

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Sidewaysに登場するマヤとテラにも、サンタバーバラ郡に住む実際のモデルがいる。
しかしVerticalの中で、マヤは一瞬しか登場せず、テラに至っては、
ネバダ州リノに移住して、エキゾチック・ダンサーをしているという設定だ。

マヤについてピケットは語りたがらなかったが、テラについては大いに語ってくれた。

「サンドラ・オー(女優)は、僕の脚本をかなり変えてしまった。
名前をステファニーに変え、車ではなくバイクを乗り回し、挙句の果てにミックスの
子供まで登場させた。ボーリング場のシーンなんて最悪さ。
あれを見るたび、僕は我慢できなくて席を立つんだ。」

「アレキサンダー(ペイン監督)は、当時サンドラと結婚したばかり。
他の誰からも助言は受けなかったとしても、新婚の妻の願いとあればね。

でも、最終的に待っていたのは、苦い離婚。
この離婚で彼女はSidewaysの収益の半分を得たけれど、海外興業の収益分も
アレキサンダーの取り分だったから、かなりの額だっただろう。
そして彼女が離婚後の活躍で得た金は、彼女の物。分ける必要は無しさ。」

Verticalの執筆中、ピケットはペイン監督に、続編が出てもオーとは仕事をしない事を
確認している。「ラップ・ダンサーはアレキサンダーに送る小さなエールさ。
彼女が(テラの)役柄を変えた事は不愉快だ。だからこれはちょっとした腹いせかな。」

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小説後半になると、ジャックの登場は減る。ジャックのモデルはピケットの友人で、
IMDによると、映画業界の電気技師ロイ・ジタンズ。

「彼の人生はまさにパーティ、女性にとってキャットニップみたいな存在さ。」
と、ピケットは長年の飲み友達を表現する。終盤、ジャックがマイルズに
届け物をするシーンがあるが、これは最近起きた事実に基づいている。

「ジャックは飲み続け、マイルズは断酒。マイルズが友人を失くした場面は本当の事だ。
ロイは来る度にボトルを持ってくる。目の前で飲んでも平気だって言ったんだけど、
やっぱりそうはいかなかったみたいだね、訪ねて来なくなったよ。」

「ジャックとマイルズの間を取り持つ共通点は、アルコールにゴルフ。
でも一方が棄権したらどうだろう。もし三作目を書いたとしても、ジャックが
登場するかは分からない。彼はもはや僕の人生には関わっていないからね。」

ピケットがサンタバーバラ郡を見つけた理由は、ワインでは無くゴルフだった。
母の看病で辛い時期に、平日空いているコースを回ったのが始まりだ。

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マイルズが振舞っている様には、自分がワインについて詳しくない事を
ピケットは認めている。
二人とも、ピノ・ノアールの魅力は、複雑さと、その微妙さだと言ってはいるものの、
その実、良く読むと、マイルズの好むワインはいずれもビッグでジャムのような
ピノであり、どの赤ワインでも有り得るという事実に気付く。

例えばVerticalの中でマイルズは2007 Sokol Blosser Goosepen Pinot Noirを、
「素晴らしいジュースだね。歯が黒く染まる。口当たりがどでかい。興奮させてくれるよ。」
と表現している。

Sidewaysが揺り起して以来、アメリカのピノ・ノアールは、より大きく、よりリッチに、
まさにマイルズが好むワインになってしまったのは、皮肉な結果と言える。

「ビッグで、濃厚なピノが好きだ。」と語るピケット。
「中にはシラーを混ぜている輩も居るのを知っている。彼らにたぶらかされたのかな。
ワインのタイプ (description) にはそれほど興味がなかったと認めるよ。
それよりも僕が面白く感じたのはキャラクター (characters) だった。」

実生活でもピケットはメルローを軽蔑している。
が、映画で有名になったセリフは小説のどの版にも載っていない。
ペイン監督は、出版編集される前のオリジナルドラフトを読んでいたのだ。
ハードカバーの版権を持つピケットは、いずれ機会があれば
“I’m not drinking any fucking Merlot!”のセリフを加え直す心づもりでいる。

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Sidewaysを出版したSt. Martin’s Pressと、Vertcalの出版を拒否したKnopfの両社を、
ピケットはとても苦々しく思っている。
実の所、多くの事に対する彼の怒りや後悔の念は、とても明白だ。

「昔付き合ったガールフレンド達は、今も皆友人だよ。マッチョじゃないからね。
今の僕があるのは、全て元妻のおかげだ。
彼女については、マイルズと同じで、今でも自責の念に駆られている。」

少なくともマイルズもピケットも、無一文からは抜け出せた。
ピケットによると彼はSidewaysの出版と映画化により40万ドルの収益を得た。
そして、ペイン監督がVerticalの映画化を決定すれば、更なる収益を期待できる。
(Verticalはとてもダークな作品なので、映画化されるとしたら、
原作からは遠く離れたものになるだろう。)

「この本が1冊売れるごとに僕の取り分は$2.50から$3。Sidewaysは$0.70だった。
他にも、e-books、キンダル、いろいろ収入源がある。」

しかし、彼は芸術の為に苦しんでもいる。

「自分が幸福を見つけられるのか、わからない。離婚したのは僕の責任だ。
当時、自分を別の場所に移しかえて、それを題材にして執筆出来ると思ったんだ。」

ピケットと元妻バーバラは、80年代に幾つかの映画を製作している。
しかしリリースされたのは『From Hollywood to Deadwood』1本だけで、
評価も収入も芳しくなかった。妻と別れた理由については、もう定かでないという。
そしてその後の10年は、彼にとって貧困と恐怖の時代だった。

「90年代に2年半、一切女性に触れなかった時期があった。
デートに誘っても、いざ支払いの時に、クレジットカードが使えない…なんて
カッコ悪い事態に陥る危険性があったからね。」

「償還。それがマイルズに求める全てだ。放蕩に浸かってしまった罪に対する償い。
彼の存在を世に広める事が、償いの履行なのさ。」

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最後にピケットに投げたのは、もしも彼が幸福を見つけ出したらば?という質問だ。
執筆人生もそこで終わりになるのだろうか?

「マイルズが幸せになったとしたら、次の本が書けるかどうか分からないな。
昔、僕に銃を買う金があったら、とっくに自殺していたかもしれない。
でもその代わりに、僕は書いたんだ。」

以上、ブレイクのレックス・ピケット氏へのインタビューでした。
オリジナルはこちらからどうぞ。

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映画は何度も見ていたものの、最近まで原作本を手にした事はありませんでした。
小説を読んで驚いたのは、マイルズの人となり。
映画では俳優ポール・ジアマッティが、マイルズを良い感じに演じているし、
(嫌いになりきれない程度に、ワインオタクで嫌な奴…といった感じかな)
トーマス・チャーチも、女性に憎まれて当然のジャック役を、魅力的に演じています。
でも原作では二人とも、映画にも増して飲兵衛のどうしようもない奴ら。

しかし、Sideways、Vertical、作品の登場人物と著者の類似性を知ってしまうと、
なかなか痛み無しには読めない2作品です。
著者の表現する所を遍く読み尽す為にも、英語版でお楽しみください☆

映画版のSidewaysは、美味しい所をうまく引き出して、楽しく味付けしてあるなぁと
つくづく感じた次第です。

by sfwinediary | 2011-02-16 03:21 | ワインな本