お出迎えに来た車の後部座席にゆったりと収まったのは良いものの…
後で事情を知った人々から注意の山。
誘拐される恐れがあるので、高級車の後部座席には座ってはいけないのだそうな。
何はともあれ無事帰国して書き上げた原稿が、先日L.A.Timesに掲載されました。
面白いので和訳してお届けします。 (オリジナル英文原稿はこちらからどうぞ☆)
Bacardi, and its yeast, await a return to Cuba –By W. Blake Gray
(L.A Times新聞より)
1960年10月14日、午前6時。
キューバ国営ラジオは、社会主義政府による、砂糖工場並びにラム酒製造工場の
国有化を発表した。
そこにはもちろん、島で最も有名な事業を営むバカルディ社も含まれていた。
キューバ海兵隊は、権限の移譲を謳った綴り字間違だらけの公式書類を携えて、
バカルディのオフィスがあるハバナへと急行した。
しかしながらカストロ議長と内閣府は、ここで致命的な間違えを犯した。
そしてそれは今日、世界のラム酒に大きな影響を及ぼしている。
キューバ海兵隊が向かったのは、こともあろうに間違った都市、
間違った建物だったのだ。

バカルディは島の反対側に位置するサンティアゴに、本社と製造工場を置いていた。
間違いに気付いた海兵隊は、民間機を利用してサンティアゴへと向かったが、
ようやく彼らが到着した時には、時すでに遅し。
工場内では細胞の一つに至るまで完璧に破壊され、生き残っているものは何もなかった。
バカルディの“最も大切なモノ”は、既にキューバを去った後だった。
『Bacardi and the Long Fight for Cuba』(Tom Gjelten著)によると、
ダニエル・バカルディが命じた大虐殺は、彼の最も信頼するスタッフの手で為された。
しかし、血は一滴も流れていない。
なんとなれば、抹殺されたのはイースト菌だったから。

「イースト菌は会社にとって、最も大切な資産です」と語るのは、
マスター・ラム・ブレンダーのホアン・ピニェラ氏。
150年ほど前にキューバのサトウキビの根に誕生したイースト菌は、カストロの手を逃れ、現在プエルトリコとメキシコにあるバカルディのラム工場内で、
厳しい監視下の元、冷蔵施設に厳重に保管されている。
プエルトリコのバカルディ工場では、一般の人々はカクテル付き見学ツアーを
楽しむ事が出来るけれど、マスター・イースト菌の眠る建物へは立ち入り禁止。
でも、君がバカルディ社に丁重にお願いしたならば、
もしかしたらメキシコの工場で、特別に見学させてもらえるかもしれない。
何やら免責事項を記した書類に署名しなければならないけれど、
もし君が醗酵オタクなら、生涯に一度のチャンスというものだろう。
だって、カストロ政権の手を逃れて、世界的な大会社を造り上げたイースト菌なんて、
そうそう拝めるものじゃないだろう?

鉄筋建ての研究所に足を踏み入れると、壁には美しいイースト菌の大写真が何枚も
飾られている。紫を背景に映る丸い白い細胞は、まるで映画スターのようだ。
ノートPCには、イースト菌のゆるやかで緩慢な増殖の様子が映し出されている。
この研究室でイースト菌についてのレクチャーを拝聴するのだけれど、
それもまたなんとも緩慢なペースだった。
一刻も早くイースト菌を拝みたくてウズウズしていた僕は、
いつ中に入れるの?何時?いつ?と聞きまくり、漸う神聖な場所に入れてもらえた。
驚いたことに、この貴重なイースト菌を保管しているGE社の冷蔵庫は、
音のうるさい古いもので、霜ナシなんて洒落た装置も付いていない代物だった。
イースト菌は栄養素の入ったジェルと共に丸い容器に入れられ、
静かに繁殖の時を待っていた。
ラムが製造される時には、このイースト菌を糖蜜(モラセズ)と水に混ぜた水溶液が
2万トンも用意されるというのだから、大仕事だ。

読者の中には、このイースト菌が長い時の中で変化したり発達したりしたのではないかと
思われる方もいるだろう、何せ、故郷を離れてから50年以上の歳月が流れているのだから。
しかしその点は、新たに増殖させたイースト菌が前のものとまったく同一であるよう、
ガス色層分析装置などを使って、細心の注意を払いながら厳密に管理しているそうだ。
バカルディ社は、富をもたらしてくれたこのイースト菌を溺愛している。
彼らが故郷を去る時、何一つ後に残さないようにしたのは、
ひとえにキューバ政府の手からこのイースト菌を守る為だった。
当時のペピン・ボッシュ社長は、いつの日か、ラム酒ビジネスを巡って、
キューバ政府が自分達の競争相手になる事を予測していたのだ。
そして彼の予測は的中した。
カストロ政権はすぐさまバカルディの工場施設を使い、
同社で古くから働いてきた従業員達の助けを得て、ラムを製造し始めた。
あまつさえ当初は「バカルディ」という名をそのまま使用した。
しかし登録商標を巡る世界中での裁判の結果、敗北を喫したキューバ政府は、
今日知られる「ハバナ・クラブ」という名に改めたのだった。

実際の所、両者は似ていない。それは主に押収し損ねたイースト菌による違いだろう。
ラムはサトウキビの液か、砂糖製造の副産品である廃糖蜜(molasses)から蒸留される。
糖蜜は運搬し易いので、世界中どこでも、例えばサトウキビなんて生えそうもない
ニューイングランドの地でも、ラムを造る事が出来る。
また、1860年代の半ばまで、ラムはカリブ海を航海する船乗り達と共に、
何世紀にもわたって世界中を旅していた。荒さで有名なこのスピリッツは、
年月をかけて熟成させる事でのみ、そのまろやかさを増すからだ。

1862年ファクンド・バカルディは会社を創立。
数年も経たずして彼が世に送り出したライト・ラムは、たちまち大ヒット商品となった。
炭フィルターを使用した事が風味に大きな影響を与えたのだが、
バカルディ・イーストが鍵を握っていたのは間違いない。
ファクンドがいったい何時頃からこのイースト菌を使い始めたのかは不明だが、
この特別なイーストは、醗酵の進み具合が速いという特性を持っている。
「競走馬を選ぶ時、早くて強い馬を選ぶでしょう。まったく同じ理由で、
我々はこのイースト菌を選んだのです」と言うのはピニェラ氏。
皮肉な事に150年前の恩寵は現代のスピリッツ・ファンを手放しで喜ばしてはくれない。
バカルディ・イーストは、糖分をアルコールに変える速度が速いがために、
エステル等が造り出されにくく、結果、バカルディ・スペリオールは
他社のラムに比べて味化合物が少ないのだ。
(同時に、二日酔いを誘導する化合物も少ないと考えられている。)

今日のバカルディ・スペリオールは、軽い風味でほんのりとした甘さを持っている。
しかし、もう少しキャラを際立たせたい場合は、ニュートラルな要素、
例えば炭酸水などを加える必要がある。
大量生産されるダーク・ラムは往々にしてキャラメルやトフィー等の風味を持つが、
現代の職人が造るラム、その中でも特に、サトウキビジュースから直接造られる
アグリコール・ラム(農業ラム)は、セロリやアスパラガスといった野菜風味を
持っている事がある。
これらは、バカルディ・イーストが大躍進を遂げる以前のラムが持っていた風味だ。
では何故、わざわざ風味の少ないラムを造る必要があるのか?
その軽い口当たりとマイルドなキャラクターから、バカルディはキューバで、
いや、全世界でカクテル用のラムとして愛好されているからだ。
アグリコール・ラムがカクテル業界でもてはやされる今日でも、
他の材料との調和の良さから、バカルディでなければ作れないカクテルも少なくない。
「カクテルによっては、この味は利点だね。」と語るのは、ウエスト・ハリウッド
Fig & Olive のヘッド・バーテンダー、マルティネス氏。
「暑くて湿気の多い南国気候だったら、ダークな味は求めない。逆に欲しいのは
明るくて軽い感じのもの、アクセントにトロピカルな味を使える酒さ。
酸味があって、発泡性があって、そしてフルーティな感じなものが良いよね。」

バカルディは未だに個人所有の会社であり、一族はフロリダを始めとして
あちこちに散らばってはいるものの、祖国キューバの血を誇りとしている。
見学ツアーのビデオで、現会長のファクンド・L・バカルディ氏はこう語っている、
「キューバの亡命者達が祖国に帰れる日は、そう遠くはないでしょう。
そしてその時、栄養素の詰まった試験管と共に旅するモノもいる事でしょう。」

以上、バカルディの誇るイースト菌のお話でした。
来週末から、今度はメキシコのカンクンに旅する予定のブレイク。
また酒の取材?と思いきや、死者の日(11月1日)を見に行くそうです☆
「日本のお盆と同じで、先祖を祭る日だよ。日本より全然派手だけど。」と旦那。
どんな土産話を持ってきてくれることでしょうか☆
カンクンは観光地なので、ショットガン席に座らなくてもいいそうです(笑)。
ちょっと安心☆

昨日は突然F96 (摂氏35度)!!!
劇的な暑さで最高気温を記録した、サンフランシスコ。
何時もなら、日中は暑くても、夜8時ごろには
霧と共に涼しい海風が吹いてきて、一気に気温が下がるのですが、
夕べは風もなく、どんより暑いまま…。
明け方5時ごろに、ようやく涼しくなったと思ったのもつかの間、
日の出と共に、再び今日も暑くなりました。
それでも、少し風があるので、ちょっとはしのぎ易いかな。
週末にはまた65F(摂氏18度)前後に戻るようなので、それまで我慢です☆
地下鉄のバート、カルトレイン列車の混乱をはじめ、
冬10度、夏20度前後…なんていう気候に慣れているSFの街は、
暑さ寒さに弱いなぁ…と、つくづく感じた次第。

さて、暑過ぎて、白ワインでは物足りない…
そんな時には、レモンチェロ♪
HelloCello Limoncello di sonoma
イタリアのポピュラーな飲み物ですが、
レモンチェロ・ソノマは、北カリフォルニアで採れた
有機栽培のレモン果実、グラッパ、アガベ・シュガーを使用しています。
K&Lなどで$25程で販売されています☆
ずっと冷凍庫に放り込まれていたままだったのですが、
暑さに伴い、久しぶりに登場。
レシピはいろいろあるようですが、氷で割って飲みました☆

Vampire Weekendのコンサートを見てきました。
ダウンタウンにあるこの劇場は、なかなか面白い装飾で味があります。
私は背が低いので、いつも2階席。(1Fだと何も見えない…涙)
ゆったり座りながら、コンサートが楽しめます☆

普段は食事の席以外でアルコールは飲まないのですが、
この日はさっぱりしたアルコール飲料が欲しくて、2Fにあるバー・コーナーへ。
(コンサート前に食べたベトナム料理が、コッテリ味だった…☆)
スピリッツ系は殆ど飲まないので、どれをオーダーしたものか、
かなり悩んだ末、とっても久しぶりにジン&トニックに決定。
大昔だったら、ブレイクに調達してもらったのでしょうが、
いまさらデートと言うわけでもないし、
自分で出来る事は、自分で!というわけで、さっさと自分でオーダー。
しかし、侮るなかれ、ジン・トニック。
奥が深かった…☆

バーの後ろの棚に並んでいたのは、まぁ悪くないジンのボトル2種。
なので、ジン・トニックを頼んだら、このボトルのジンが使われると
ブレイクは自然に思っていた…。
一方私は、どんなボトルがどんな味なのか、経験値ゼロなので無頓着。
オーダーとともに、後ろを振り向くと思いきや…
早技のバーテンダー氏は、手元に置いてあったチープなボトルを
やおら持ち上げ、プラスチック・カップにたっぷりと注ぎ、
ソーダ水を振りかけ、ライムを投げ入れ、さっと差し出してくれました。
試飲したブレイクは、一口含んで、ウェ~っという顔をしてる。
私も飲んでみたところ、シンプルに苦いだけで、アルコールがガンガンといった感じ。
はるか昔に北京で飲んで以来、ジンは苦いものだと思っていたけれど、
美味しいジンは、ハーブの香りと味がして、もっとまろやかだとの事。
ええ~、知らなかったよ!
結局、苦くて口当たりも荒いので、半分も飲めずに挫折…。
コンサートは、アルバムよりもハードな演奏で、違いが面白かったです♪

あれから一ヶ月。
先日、フランス製のジンのサンプルが送られてきたので
わくわくしながら、さっそく試してみました。
美味しい!
甘口だけれど、すっきりしているし、後味が爽快。
ライムがなかったので、シンプルにジンとソーダ水、氷を入れただけなのに☆
HPをのぞいて見ると、コニャック地方の葡萄畑で6月中旬に数日間だけ咲く
開花したばかりの葡萄の花を摘んで、香りづけに使用しているとの事☆

不必要な中身の見えない情報が多すぎ…
お洒落なんだろうけれど、必要な情報に行きつくまでが面倒だわ…。)
漠然と飲むだけではいけないなぁ…
色々試して、美味しい(好きな)ボトルを覚えないと…
と思った次第であります☆
あっちでコンコン、こっちでコンコン、咳が聞こえる。
かくいう自分も年末から風邪を引き込み、一カ月目にして
漸くノドの痛みが治ってきたところ。
そんな中、近所のカストロ・シアターで、フィルム・ノアール映画祭が始まったので
さっそく見に出かけたところ、ほぼ満席の劇場内のあちこちから聞こえるのは、
咳、くしゃみ。
挙句の果てに、上演1分前に隣に座った女性は、
引っ切り無しに鼻水、咳、くしゃみで、歩くバイオ・ウェポン状態。
これ以上、新たな風邪をひきこんで会社を休めないので、
帰宅早々、塩水でうがいをしようと決意。
そして帰路でひらめいたのが、アルコール消毒♪
幸いにも、家にはアルコールがゴロゴロしている。
ワインはアルコール度数が低いから却下。
日本で買った焼酎の瓶は、未開封なので却下。
ウォッカ、ブランディー、ラム、等々、ひと通り揃ってるけど、何にしよう?
Blakeに「何を使っていいかな?」と聞いたところ、クローゼットから出てきたのは
アルコール度40%のスコッチ。
さっそく洗面所でうがいしたのだけれど、中々パワフルな味。
これなら塩水や、市販のうがい薬と違って、間違えて飲み込んでも
ウェ~ってならないよなぁ、なんて考えながら、ガラガラ消毒したのでした。

さて、そういう彼はと見やると、18年物のハイランド・パーク(Highland Park)を片手に、
くつろいでいる。
喉のアルコール消毒も兼ねているそうだけれど、こちらのスコッチは
うがい用にくれたのとは全然違って、飲み口が断然スムース。
18年間熟成させているそうで、口当たりがよくて、複雑に何層にも重なった味。
スモーキーな風味がなんともいえない美味しさ。
この倍も値の張るスコッチと飲み比べて、コストパフォーマンス的に
一押しで、値段は多分$80ぐらいかな。
スコットランドの北にある、小さな島、オークニー島で作られた
ハートランド・パークのシングルモルト・スコッチ18年。
交通の不便さゆえに、長期の貯蔵が可能だったようで、
シングルモルトで、この値段、この美味しさが実現したようです☆
Highland Park Single Malt Scotch whisky
Aged 18 years

さて、現在カストロで開催中の映画祭は、ノアール・シティ7。
Noir City 7 (1月23日~2月1日)
今回上映されている映画のテーマは「ジャーナリズム」。
新聞社、ジャーナリスト、フォトグラファー等をめぐり、
ハッピーエンドで終わらない、フィルム・ノアールの魅力が満載。
いずれもDVDが発売されていない、映画ばかりを集めているので、
劇場でのみ楽しめる、希少な作品です。
ハンフリー・ボガードがチーフ・エディターの新聞社。ちょっと想像しにくいですよね☆

